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はじめに

ポスドクを6.5年間経験したので、それに基づいて、素粒子論分野でアカデミアを目指す人(ポスドクや博士課程学生をとりあえず念頭にして)に対して雑多なアドバイスとアカデミア業界に対する個人的意見をただ書いていきます。 
素粒子論に限らず、理論物理全般にある程度は当てはまると思います。

アカデミアを辞めて民間就職したので、若干ネガティブな感じ(いつアカデミアを離れるかなど)です。

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用語解説

色々専門用語を使うと思うので、まとめておきます。

  • フォーマル: hep-thに論文投稿する分野。
  • 現象論: hep-phに論文投稿する分野。
  • 若手教員: 学位取得後10年以下くらい。年齢で言うと40歳未満。省略して若手とも書く。
  • 若手ポスドク: 学位取得後6年以下くらい。年齢で言うと35歳未満。
  • 高齢ポスドク: 学位取得後10年以上経過しているポスドク。年齢で言うと、37歳以上。
  • ポスドクn期目: 1期 = 3年としています。ポスドクn期目と書いた場合、ポスドク(3n-2)年目から3n年目です。ポスドクの任期は3年のところが多いので、n期目 = n箇所目という関係がだいたい成り立ってる感じです。

背景

まず素粒子論業界のアカデミア状況をまとめておきます。参考として、素粒子論ポスドクのポジション状況をまとめた記事や公募件数を調査した記事を挙げておきます。
tter.com/phys_yoshiki/status/1443577046291021837?s=20   
2022年の状況
  • 博士課程に進学しても民間就職することはそこまで難しくないため、昔と違い博士課程に進学したからと言ってアカデミア業界に残らざるを得ないという状況にはない。
  • ポスドクになったしても35歳程度であれば民間就職できる。
    そのため、2000年以前のようなポスドク問題(=ポスドクになったら民間への転職はできないので、アカデミアで教員ポストを取らないといけないが、ポストがないのでほとんど無職の状態になる)は起こっていない。
  • しかし、大学院拡充計画による大学院生大幅増加と交付金削減によるポスト減少の二つの影響により、アカデミアの職を目指した多くの人がポストを得られない状況にある。特に、国が大学の運営費交付金を大きく削ったため、若手教員を任期なしで雇用することができない状況にある。そのため、多くの若手が日本・海外で任期付きのポスドク・助教・准教授として任期なしのポストが空くのを待っている状況である。

    補足:
    近年、大学院生の数は素粒子論であっても減っている。それに伴いポスドクの数も減っているらしい。しかし、自分が調べた限りにおいては、素粒子論でポスドクとなる人数自体は毎年10人程度でここ20年くらいあまり変化していないような気がする。
  • ポスドクをするなら20年前くらいと比べはるかに簡単になっている。
    例えば国内であれば、応募者が減っているため学振の採択率も増加している。競争的獲得資金や短期の財源によってポスドクや任期付き助教の公募が、自分が学生のときに比べて増えている。
    海外の公募であれば、中国の国策によってポスドクポジションが増えているので、行先が一切見つからないということはほとんどないと思う。
  • 昔と違い、場所を選ばなければ、若手であれば無給ポストは回避できる。

なぜ日本で職を取ることができないのか?


公募の分類


まず、どのような大学からどのような公募が出るか、簡単にまとめる。大学・研究所の規模などからおおよそ以下のように分類できる。

A: 研究所・旧帝大クラス
  • 素粒子論研究室という枠組みがあり、ファカルティが5人以上いる。
  • 比較的dutyも少なく、研究する時間もある。(ポスドクの研究時間を100とすると、教授で10~20くらいの研究時間らしい。准教授・助教になるともっと多いはず。)

公募:
  1. 研究室が出す公募
    業績重視。応募条件に研究分野が明記されている。必要書類も比較的少ない。助教でも任期なしの場合がある。
    (研究室によっては、人事委員を身内で固めることができるので、コネ人事を行うことができる。また昇格人事を公募として出す場合もあり、それも実質コネ人事。)
  2. 大学が出す公募
    主に若手向けの分野を問わない公募。この場合、必要書類が多い。例えば、東北の学際科学や名古屋のYLCなど。
    任期に関しては、テニュアトラックと銘打ってても任期ありの場合が多い。少なくとも海外のテニュアトラックと制度が異なる。

B: 素粒子論研究室のある大学
  • ファカルティ数名がいる素粒子論研究室があり、博士課程の院生も数名いるような大学。
  • dutyの量は大学によって異なるが、論文を書いているファカルティもいる。

公募:
業績重視。応募条件に研究分野が明記されている。必要書類も比較的少ない。助教の場合、ほぼ任期あり。ただし、業績によって任期なしの助教や准教授に昇格できる場合もある。

C: 素粒子論研究室のない大学
  • ファカルティが数名在籍する素粒子論研究室は存在しない。
  • 教育dutyが多く、研究する時間はほぼない。
  • 2年に1本ペース以上で論文を書いている人ですら少ない印象。

公募:
研究分野が指定されてることはほぼない。
業績が必ずしも重視されるとは限らない(と思われる)。
ある一定の業績を超えていれば、教育経験などが重視される(と思われる)。
一定の業績はポスドク5年目で、論文10~15本くらいあればいい気がする。引用件数やインパクトファクターなどは重視されていない気がする。
必要書類が独自フォーマットであったり、教育に関する抱負以外の特殊作文(シラバスの作成など)などを要求されたりする。
また、印刷した書類を郵送であったり、pdfファイルをUSBやCD/DVDに入れて郵送などもあり得る。

基本的に、分野を絞った公募の場合、Bクラスの大学の公募に近い。しかし分野が絞られていないと、途端に要求が増える。

任期の有無に関しては、公募によって大きく異なる。
助教クラスに関して言うと、任期3~5年で、更新や任期なしへの転換は大学次第だった。
教育dutyは他の大学に比べてはるかに多い。任期ありで年間20コマの公募も見かけたことある。

なぜ日本で職を取ることができないのか?


まず、日本の大学教員は必ずしも研究者とは限らないという事実を認識しておくことは重要です。
仮に研究していることに対して給料を貰っているとするならば、研究所の教員は5年程度論文を書けないならば、解雇されるはずです。
そうならないのは大学教員は「研究すること」だけではなく、「教育すること」や「大学・研究所運営」に対して給料を貰っているからです。また大学教員が研究者であるならば、その人は数年に1本程度の論文を書いているはずです。(大学の違いにより研究時間に大きく差があるので、研究する意欲があればこの程度と予想。)
例えばTwitterで学者を名乗っている大学教員ですら10年間論文を書いていないこともありますが、そのような場合、その人は研究者ではないでしょう。教育者かただの評論家です。

大学によっては大学教員に「研究すること」を期待しておらず、「教育すること」を期待しています。その場合、要求される能力は研究能力ではなく、事務能力・教育能力になります。そのため、研究能力が高い人が必ずしも大学教員になれるとは限らないということになります。裏を返せば、全然研究能力がなく、過去数年以上論文を書いていない人でも大学教員になり得ることはあります。
 
補足:
研究がずば抜けてできる場合(ポスドク時代の業績で名前の付く仕事をしているなど)であれば、研究能力だけで研究所の職に就けると思う(が、だいたいそういう人でも事務能力・教育能力は高いですが)。
しかし、そうでない場合、壊滅的でない事務能力・教育能力は必要です。例えば、締め切りは守る、出張に必要な書類をきちんと提出する、などなど。
講義に関しては、学部レベルの内容を教えるなど。(ときどき大学院や研究レベルの話題に関する授業を学部の必須科目の講義で行う人がいる。)
あとハラスメントしないとか。

ちなみに、日本で職を取ることは、欧米に比べるとまだ簡単であるように見える。
  • まず、日本の公募では、(一部の研究機関を除いて)日本語で書類を書くことができる。
    そのため、応募者は日本人に限られている。
  • 日本で職を取ることは、A~Cクラスで大学で職を取ることを指しているが、欧米の大学で職を取ることは、日本の大学のAクラス相当の大学で職を取ることを指すから。
  • 欧米ほど流行りの研究テーマをやって、論文数・引用件数を増やす必要がない。
    それよりもその人が独自のテーマをやれているか、研究力があるかどうかが見られている印象がある。
  • 欧米の場合、なんらかのコネがないとそもそもショートリストにすら残れない。

そのことを踏まえ、個人的には6つの理由が考えつく。1~4は個人の問題で、4の一部, 5,6は業界の問題である。
  1. 絶対的研究能力不足
  2. 相対的研究能力不足
  3. 大学教員としての能力不足・経験不足
  4. 公募に出してない
  5. 上にも述べたようにポストの大幅削減により、枠がない
  6. 人事が動かない 

 

詳細: 

  1. 素粒子論分野では判断しにくいが、他分野で言うと、筆頭著者に相当する論文が一切ないなど、他の人の研究を手伝わなければ論文が書けないような人は絶対的に研究能力が不足していると思う。
    論文は書いているのものの、学術雑誌に投稿しても査読に通らないようなクォリティの低い論文しか書けていない場合も研究能力は不足してると言えるだろう。

  2. 相対的研究力不足は、絶対的な場合と違い、一人で研究を行う能力はあるものの、同世代の人と比べ論文数が少ない・論文のインパクトが小さいなどを指す。
    また、一人で論文を書くことができても、数年に一本しか書けない場合も該当すると思う。PRL論文がないとか受賞経験がないなど。
    例えばフォーマル分野で言うと、多くのポスドクの研究テーマが「量子情報に基づいたホログラフィー」なので、同じ研究テーマで優劣が出る。

  3. また大学教員として絶対的な能力不足としては、講義があまりにも下手であるとか、大学における雑務をこなせないorこなす気がない・締め切りを守ることができないなどが挙げられる。
    ポスドクや科研費雇用助教では絶対に経験することができない業務(講義や入試関連)が存在するため、ポスドクではほぼ経験不足となってしまう。

  4. 大学教員になりたいのだから、公募には出していて当然だろう、と思うかもしれないが、すべての人間が公募に片っ端から出すわけではない。
    研究がしたい場合、A・Bクラスの大学を狙うしかないので、Cクラスには出さないという戦略も考えられる。
    自分の研究能力が不足していると思うにも関わらず、競争率が高いポジションに出せば、落ちる可能性が高いので、書類作成の時間が無駄になる可能性もある。
    また、5年任期の特任助教としてA・Bクラスの大学に着任した場合、着任の1年目から任期なしとは言え、Cクラスの大学の公募に出す人は少ないのでないだろうか?
    採用されるかどうか分からないCクラスの公募はなかなか出しにくい。出しても採用されるかどうか分からない公募に対し、数十時間の作成時間を費やし、さらに郵送費用を払ってまで、公募に出すべきかは難しいところ。
    特に海外にいると、面接費用を出してくれない公募には出したいとは思わない。
    ポスドクになりたての場合、教育dutyが多く、さらに任期付きのCクラスの大学の公募に出しまくる人も少ないような気がする。

    既に任期なしのAランクポストに就いている場合、研究ができる人であれば、A・Bクラスの公募にしか出さないだろう。
    既に研究をしなくなった人の場合でも、わざわざ教育dutyの増えるCランクの大学に移るメリットは少ないだろう。

    このような理由で、すべての公募に出す人は多くないと思う。

    自分の場合は、ポスドク4年目くらいから公募に出し始めた。
    しかし、自分の業績では採用されなさそうな有名大や郵送限定公募などには出さなかった。そのため、今までで16件しか出していない。(そのうちの1件は出した気になってるだけで、受領メールを受け取り損ねてたので、実際は出せていない。もともと郵送限定公募だったのをメールでも受け付けて貰えるのを確認して送ったんだけどなぁ。。。)

    ある研究所のある教員に「公募に出してますか?」と、ある人が聞いたところ「私の業績で採用されるところがあると思いますか?」と逆質問されていた。
    そういうことです。

  5. ポストが大幅に減っている。A,Bクラスの任期なし助教公募は1年に1件くらいのペース。A,Bクラスの任期なし准教授も1年に3件くらいのペースである。
    そのため、博士号を取得し、ポスドクになる人数が年平均10人くらいなので、

    ポスドクになる人 - 任期なしについた人 - 辞めた人 > 0

    となっているため、競争率が高い。

    任期なしではなく任期ありの公募が多いため、その任期ありについた人が数年後にもう一度ジョブマーケットに現れるのもなかなか厳しい。(ポスドクと任期あり教員はそれぞれ120人と30人くらい)

    Cクラスの大学の場合、一定の業績があればいいので、業績が他の人と比べて抜きん出ている人が採用されるとは限らない。
    (分野が違うと論文数などから判断しにくい。特に、素粒子業界では論文をアルファベット順で並べるため、本人の実力かどうかを他分野の人が判断するのは難しいと思う。そのため、比較的分野の近い人が取られる傾向にある気がする。)

  6. 日本の大学では、退官する人・異動する人がいた場合、その人のいたポジションの公募が出る。
    また、Aクラスの大学では、内部昇格はない。(昇格人事の場合も公募によって行われる。その場合、研究分野ではなく研究テーマが書かれるなどの忖度がある。)
    そのため、Aクラスの准教授・助教は昇格したい場合、どこかに異動する必要がある。5の理由により、十分な業績があっても昇進できない場合がある。(助教であるにも関わらず、准教授・教授より業績のある人がいる。)
    また、論文を書けないような人や業績量が足りない場合、教授になりたければBやCクラスの大学を目指す必要があるが、教育dutyが大幅に増えることや引っ越しや家族のこともあり、異動する人はあまりいない気がする。
    実際、自分が大学院に入ったときに准教授だった人は七人中二人しか異動していない。
    京都大学の准教授なので、優れた研究業績・教育経験があるはずなのですが。

Aクラスの公募の場合、業績が重視されるので、1,2に該当する場合、ポストを取るのが難しい。
Bクラスの場合も、1,2,5のため、ポストを得る人は少ないし、任期ありの場合も多い。
Cクラスの場合、業績が重視されるとは限らないので、どのようにすれば、ポストが得られるか分からない。
(それでも業績の有無を判断しやすくするために若手奨励賞などの賞が設けられたり、ポスドクであっても「特任助教」という名称を付与するなどして、差別化は図られてる。)
また応募書類の必要書類が多く、その作成にかなりの時間が取られる。

補足:
上でA, Bクラスの公募では、業績が重視されると述べたが、それはあくまでも基本的にであり、准教授・助教クラスであっても業績を無視したコネ人事は行われている。
そのため、業績のない人がポストを取る一方、業績のある人がなかなかポストを取れないという現状がある。
(Cクラスであれば、教育>>業績なので、研究できる人が公募に出さないことによって、そうなるのは理解できる。が、A, Bクラスの公募で、自己利益のためにや、自分の知り合いだからということでコネをフルに発揮するのは本当に止めてほしい。)
(B・Cクラスの大学の場合、助教や准教授を昇格させるので、シニア向けの公募が出ない場合もある。)

どういう戦略を取るべきか


理想のキャリアパス

助教の採用時の年齢制限は35歳、准教授のそれは45歳くらいと聞いたことがある気がします。つまり、この年齢を超えるとかなり厳しくなります。また、日本の特任助教は海外ではシニアポスドクに該当します。
そのことを踏まえると、ポスドク6年目までにシニアポスドク以上、ポスドクの9年目までに任期なし助教以上になるのが妥当です。
(ただし、任期なし助教以上に9年目でなるのはめちゃくちゃ難しいので、任期5年以上のそこそこいい研究ポジションと読み替えてもいい気もしますが。)
その後、准教授・教授などにステップアップすることになります。
 
 
(1) 研究がしたい場合。
日本で研究が十分できるのはAクラスだけな気がします。
(Bクラスの場合、論文より本を書いてTwitterで活躍している人の方が目立つ。また、若手のポジションは任期付き。)
しかし、Aクラスの若手向け任期なしポストは稀です。ポスドク6年間のうち、数件しかない状況だと思います。
よって、海外でいったんテニュア(テニュアトラック含む)になり、日本の公募にアプライし続けるのがいいと思います。
任期なしであれば、誰かが退官・異動して公募が出るまで待てますが、任期ありであれば、待つことはできません。

研究ができれば分野は問わないというのなら、分野転向するのも一つの考えです。少なくとも、素粒子論分野よりは競争の激しくない分野が多い気がします。


(2) 研究はできなくてもいいが、アカデミア業界に残りたい場合。
ポスドク3年目以内に高専のポストに就きましょう。
共同研究者がいない限り、論文を出すことは難しいと思いますが、教育経験を大きく積むことができます。
任期なしなので、Cクラスの大学の公募に出し続けることができます。
(もちろん最初からCクラスの任期なしを目指しても構わないが、任期なし助教はほぼないため、任期なし講師・准教授にアプライすることになる。)
Cクラスの場合、自分の分野が募集の分野と違う場合でも出した方がいいです。
例えば、募集要項に「物理学、特に○○」とあり、○○が自分の専門分野と異なっていたとしても、業務内容に○○の専門分野の講義が入っていないなら、採用される可能性はあります。
また、全然関係ないような公募でも出していれば、いろいろな人の目に書類や推薦書が留まるので、どこかで有利に働くと聞いたこともあります。

Cクラスの大学の場合、海外でポスドクをしていることが不利に働きます。
公募を郵送で送る必要もあるし、仮に面接に呼ばれても交通費は基本的に自費なので。
また、業績経験だけでなく、教育経験も重視されるので、日本にいる方が非常勤講師で教育経験を積むことが簡単です。
(海外でポスドクをしても大学によっては教育経験を積むことができる場合がある。)

大学教員でなくてもいいのなら、URAという道もあります。URAの道に進むと、研究をする時間は取れないと思います。軽く調べたところ、ポスドクと同程度の任期・給料でした。うまくいくと、任期なしのポジションが見つかるらしいです。


(3) いばらの道。
(1), (2)どちらも嫌な場合、いばらの道になります。たぶん多くの人が辿る道です。
ポスドク9年以内に、日本で特任助教・特任准教授になります。
これらのポジションは任期付きです。
任期が切れるまで、業績・教育経験を積み、公募にアプライします。
任期なしになれず、任期が切れた場合、別の大学で特任助教・特任准教授、下手をするとポスドクや無給研究員になります。
このルートの場合、めちゃくちゃ業績ある人(教授より研究業績があり、院生の教育指導も行っている特任助教など)でもなかなか任期なしのポストを得ることができず、45歳を超えても任期ありの場合があります。
(君ならいろいろ面接も呼ばれてるし、あと数年もすれば任期なしに決まるよって言われる人が決まらないレベル)

公募に関するアドバイスまとめ

公募に関するアドバイスをまとめておきます。

  • いつから公募に出し始めるか?
    → (例え任期ありで薄給だったとしても研究時間のためにポスドクを長く続けたいという場合を除いて)任期なしのいい公募(東大助教のように提出書類少なくて、郵送限定でない)であれば、ポスドク1年目から出す方がよいと思います。ポスドク1期目の終わりから徐々に任期ありや教育duty多めの公募も出すとよいと思います。

  • 推薦書を誰に頼むか?
    → 日本国内の素粒子論分野の公募では誰に頼んでも変わらないと思うが、Cクラスの大学の公募であれば、教授に依頼する方がいい気がする。
    理研の基礎特でさえ教授に頼まないと推薦書で足切りされるので、権威にすがる方がよい。

  • 写真が要求される場合、スーツ姿の写真を必ず貼る。
    → Cクラスの大学公募では必須。

いつ辞めるか?


大幅にポストが減った今、日本のアカデミアポスト(研究ポスト・教育ポストに関わらず)に就くのは難しいです。しかしながら、他の分野に比べ厳しい状況にある素粒子論でも、ずば抜けた業績で30代で教授になる人はいます。(2000年以降でhep-th分野に限っても4人いる。)
逆に、業績がほとんどないにも関わらず、ポスドク2、3期目くらいで任期なしのポジションに就く人もいます(多くの場合教育系のポストだが、稀に研究系のポスト)。
そのことを踏まえると、35歳(学位取得後7,8年程度)までに特任助教(科研費財源の場合は除く)以上になれなかったら、別の道を目指すのがよいと思います。
業績が足りない場合もあれば、純粋に運・コネがないというだけかもしれないし、公募を選んだせいで機会を逃した場合もあります。

辞める目安


ポスドクの任期はだいたい2~3年で3年が一つの区切りとなるので、3年ごとを目安として書いていきます。
研究者としての資質を自己判断するための基準として書いています。
最低限度と思える目安を書いているので、もう少し厳しい条件を課してもよいと思います。教育者になりたいならこの限りではないし、極端な話、論文をろくに書けていなくても大学の教育ポストは得られる可能性はあると思う。

  • ポスドク3年目
    自分のアイディアに基づく論文を書けていない

  • ポスドク6年目
    論文本数 1本/年(PD期間の平均) を超えられていない(特に自分のアイディアに基づく論文で)
    単著論文や自分以下の世代の人との共著論文を書けていない
    特任助教以上の面接に呼ばれることがない

  • ポスドク9年目
    特任助教以上の職に就けない

  • 常に
    次の行先が決まっている場合を除いて、無給研究員や非常勤講師などの薄給ポジション(日本の場合30万円/月未満)になる

理由

  • 3年目
    研究者を目指しており、ポスドクを3年もしているにも関わらず、論文となるような自分のアイディアを出せない場合、絶対的な能力不足だと思う。
    論文が書けるかどうかが、自分よりシニアの人が論文となるアイディアを振ってくれるかどうかであるならば、研究者としては能力不足であろう。
    Twitter上で活躍しているような、論文は書かないけど研究者として振舞いたい・物理学者を名乗りたいなら話は別だけど。

  • 6年目
    論文本数 1本/年(PD期間の平均) を超えられていない(特に自分のアイディアに基づく論文で)
    → 競争の激しい現在のアカデミアの状況では、これを超えてないと相対的な能力不足だと思う。

    単著論文や自分以下の世代の人との共著論文を書けていない
    → これから独立研究者にステップアップしようとしているなら、シニアの人に頼ることなく論文が書けるべき。
    これを満たした業績が一つもない人の場合、PIになって以降一切論文を書いてない人もいる。

    特任助教以上の面接に呼ばれることがない
    → 相対的な業績不足を表している。特に、研究分野が指定されている公募で、面接にすら呼ばれない場合。

  • 9年目
    特任助教以上の職に就けない
    → 研究業績が十分ある多くの人は特任助教以上の職(海外の場合は任期5年程度のsenior postdocとする)に就いている。研究業績がなくても、それを凌駕するほどの圧倒的な教育経験・コネや公募に選ばず出していれば、運よくポストが見つける人もいる。
    そうでない場合、運が悪くポストがないか、業績・コネが足りないか、公募の選り好みしているかなので、素直に諦める方が賢明だと思う。
    ポスドクの4期目に入ると、年齢も35歳を超えるため民間に転職するにも厳しくなる。

  • 常に
    次の行先が決まっている場合を除いて、無給研究員や非常勤講師などの薄給ポジション(日本の場合30万円/月未満)になる
    → ポスドク6年目までなら、1本/年程度論文を書いていて、きちんとポスドク公募に出していれば、世界のどこかからオファーは来る。

補足
 
ポスドクになった何割の人がそのまま日本の任期なしのポストでアカデミアに残り続けられるかは、50%ぐらいが妥当だと思っています。研究能力がある人はポスドク全体の50%程度だからです。

学位取得後7~12年後くらいの世代に限ってみると、任期なし・任期あり・高専・海外含めてだいたい50%程度です。残りのポスドクはどうするかというと、確かにズルズルと残っていればいつかはどこかでポストを取れそうではある。学位取得後13~20年後くらいの世代を見てると、ポスドクをしてる人は一学年あたり数人になるので、確かに残り続ければポストが得られる可能性はある。

辞めるかどうかの判断は究極的には自分で判断することです。少なくとも素粒子論の分野では学生やポスドクに対し、「君は研究に向いてないから民間に就職した方がいい」と直接言うことは極めて少ないです。仮にそう言われても、自分は違うから、というのが素粒子論の学生・ポスドクな気もします。


現在の素粒子論分野のアカデミアの状況

Aクラスの大学で、准教授がほぼ異動せず詰まっている。彼らが退官しない限りその枠が空かないので、優秀な助教クラスの人が助教のままでいる。このような准教授が抜けるまで、あと5~10年はかかる。
そして、任期なしの助教が抜けた場合、任期付きの助教公募が出る。
もしくは女性限定公募が出る。

Bクラスの大学では、助教クラスの公募が出ることはほぼない。
Aクラスの大学と異なり、昇進して教授になることが多いので、異動によってポストが空くことは少ない。
また退官・異動した場合でもそのポストはなくなる可能性もある。

Cクラスの大学では、教育経験が業績より遥かに重視されるので、研究を頑張っていても確実に採用されるとは限らない。
やはり若いうちになりふり構わず公募に出し続けるのが、Cクラスの大学で採用される正解な道な気がする。
 

ポスドクの給料

学振の待遇をTwitterで聞くので、学振に対するコメントもかねて

ポスドクの給料は日本円で物価換算すると、480万円/年くらいが妥当だと思う。
学振PDの給料は436万円/年なので、確かに少ない。さらに2000年頃から給料は変わってないにも関わらず、消費税・保険料・様々な商品の値上げを考えると、昔に比べて目減りしている。

給料面で言うと学振の待遇は悪いですが、研究費の面で言うと、学振PDは通常の海外ポスドクにくらべてはるかにいいです。給料面で文句がある場合、声を上げることも大事ですが、自分を評価してくれる海外でポスドクをするか、さっさと助教になればいいと思います。自分の能力が学振に見合わないほど高いと自負してるなら、できるはずです。

日本の他のポスドクでは、理研の基礎特が600万円/年+社会保障マシマシなので、助教並みに給料高いです。
基盤Bポスドクや他の場合、学振の給料が目安になっていたり、基盤Bの科研費の費用が上限としてあるので、400万円/年くらいな印象があります。

ただ、例外的にすごく低い給料の公募が出ることがあります。だいたい年収250万円程度。
このような公募が出る理由として、
  • 科研費を申請した場合、申請額の満額が支給されることはなく、だいたい7割になる。そのため、当初400万円/年の給料を想定してもその額を支給できない。
  • 科研費のルールにより、年度を超えて使用できないなどで、年数を短くして、1年あたりの給料を高めることができない。
  • 低い給料でも需要や有意義な点がある。例えば、若手ポスドクのギャップターム(次の行先が決まっているが、半年間くらいの無給期間がある場合)や研究を続けている退官した教員のためには、少額でもいい使い方だと思う。
    このように人件費として使う場合、パソコンや書籍を買ったり、無理に研究会に参加して消費するよりも、有意義だと思う。
  • 高齢ポスドクは多く、非常勤講師などで生計を立ててる人がいる。そのような人にとっては年収250万円は高い給料です。ないよりマシということです。

個人的には、上のような使い方(若手ポスドクのギャップタームや退官した人の雇用)をするならば、少額でも十分な待遇であると思う。しかし、それができないならば、次の行先の決まらない高齢ポスドクを採用することになる。(若手ポスドクであれば、これよりいい待遇のポストを見つけやすい。)

これはコミュニティのためになってますか?
自分自身が苦労したというのは分かりますが、今の若手が同じ苦労をしたらポストを取れると思ってますか?
薄給ポスドクとして、数年アカデミアに残れたとして、その人は今後もアカデミアに残り続けることはできますか?
大きな視点に立つと、ポスドクの2人に1人すらまともに職を取れない状況で、中途半端な雇用は長期的に見ると、コミュニティをダメにしてますよ?
実際、研究能力が高い東大の学生が続々とポスドクにならずに就職しています。

自分の知ってる限りで言うと、ポスドクや任期付き助教レベルであれば、年収と業績には相関はなさそうです。
 

学振を取れなかったら研究者・大学教員に向いてないかどうか

学振DC1, DC2が取れるかどうかは、指導教官や研究室に強く依存する。
指導教官が早めに論文を書かせる主義の場合、M1で論文を持っていることになるので、学振に通りやすい。通った学振書類の蓄積がある研究室にいる場合、そうでない研究室に比べて、かなり有利である。
そのため、DC1、DC2で研究者の資質やその後のキャリアについて判断することは難しいと思う。
 
しかし、PD学振・海外学振に関しては、それぞれ5回、計10回出して全部落ちたなら、研究者に向いてない可能性が高い。
(ただし、今年度の募集から業績が重視されなくなってしまったので、安直に研究者に向いていないとは言いにくいのですが。)
(研究者に向いてないと言っているだけで、大学教員に向いていないとは言っていない。)
理由として、
  • 学振PDは近い世代で争っているため、同じ分野の人とその後、公募で争うことになる。
  • 同じ分野の人だけで書類審査をするわけではないので、分野を問わない公募と状況が似ている。
    学振に落ちた理由が、書類が専門的すぎて他分野の人が分からなかったということであるなら、同じ状況に今後の公募でも陥る。
  • 科研費書類と学振書類は極めて似ている。
    つまり、学振に落ち続けるというのは、科研費に通るような書類をほぼ書けていないということになる。
    特にPDになってしまうと、アドバイスをくれるだれかが近くにいるとは限らない。
  • 昔と比べ、応募者数が減ってきているため、採択率が2倍程度上がっている。
    「学振に全落ちしたけど、今は任期なしポスト取れたので、あんまり気にする必要はないよ」と言うシニアの人の言葉を今出している世代は真に受けない方がいい。

任期ありポスト

ポスドクの任期に関しては、だいたい2~3年くらいが妥当だと思います。
シニアポスドクであれば、3~5年くらいだと思います。

昨今、若手向けのポストはほぼ任期ありです。任期制が導入される理由として、
 
  1. 運営費交付金が激減しており、その後雇い続けるための財源があるかどうか目途が立たない。
  2. 競争的資金によって雇用されているためその資金がなくなると雇用できない。
  3. 10年ルール(同じポジション・業務内容で10年間雇用された場合、任期なしに移行しなければならない)を回避するために、10年未満の雇用にする。
    雇い続けるだけの資金が今後数十年あるかどうか分からないので、制度の趣旨とはかけ離れた運用がされている。
  4. 万年助手・万年助教対策

などが考えられる。

個人的意見としては、今現在のアカデミア状況では任期付きのポジションが基本的に反対である。理由として、
 
  • 任期付き教員として、研究あるいは教育・大学運営業務をどんなにこなしていても
    (現在任期なしの教員と比較して)、その大学で昇進、もしくは別の大学へ栄転することが容易でない。
  • 35歳が民間への転職限界と言われている。そのため、35歳前後で任期が切れる場合、民間への転職も視野に入る。しかし、その年齢を超えるとその可能性すらなくなる。
    素粒子論分野では、任期付き教員になるのは大体35歳前後(学位取得後10年程度)であり、同じ分野の人が見れば、その人の研究力がどのレベルか判断できるので、その人が任期なしのレベルかどうかは判断できるであろう。
    (アカデミアに残れないレベルの人をきちんと見抜けば、本当にポストが見つからないという人はもっと減る)
  • 数年の任期で日本各地・世界各地を転々とすることになると、その人のライフプランが立てられない。

逆に言うと、業績を出せない・教育もできない人をアカデミア(特に今後の日本の研究を牽引するAクラスの大学)に残し続けないために任期付きにする場合であれば、
 
  • 研究あるいは教育・大学運営業務を平均以上できるならば、どこかの大学のポジションが見つかる状況である。(例え、コネであったとしてもごり押しできるレベルである)
  • 研究も教育も満足にできないならば、35歳程度の段階で転職ができるように、任期を設定する。任期を短く設定するのではなく、採用時の年齢を下げる方向で。
  • 本当にダメなら配置換えを視野に入れる。たとえ准教授であっても事務員やURA職員に移るように促す。

    特に、教育義務の少ない研究所では、研究ができない場合、院生の教育すらできない状況となる。この場合、研究会の運営のような事務員の方でもできる仕事しかしておらず、ポストを活かしきれていないと思う。
    研究所であれば、「今後の日本の研究を牽引する人材」で常にあって欲しいので、それができなくなった時点で異動を促すシステム(紳士協定は機能していないが)を導入して欲しいとは思う。
  • 10年ルールを廃止し、10年を超えても同じ大学にいれるようにする。
     
くらいにはなって欲しいところ。

ポスドクになるべきか?

ポスドクになるかどうかを判断するための材料としてメリット・デメリットをまとめておこう。

メリット

  • 日本の物価換算してだいたい400万円~500万円くらいの給料で、研究だけができる。
    任期ありだが学位取得後5年以内程度であれば、業績を出せている限りどこかではポスドクポジションが決まる。
    ポスドクを長く続けることも可能。たぶん、20年くらいは続けられる。
  • 研究ポストである大学教員になるためには、ポスドクとなって研究業績を稼ぐしかない。
  • 拘束時間が極めて少ない。例えば、役所の手続きや病院などに行くのに有給使うなどしなくていい。
  • 昼夜逆転生活をしてもある程度は許される。
    修論書いてる学生に朝5時に「朝9時に起こして下さい」と頼まれることもあった。
  • 現地語を話せない状態なのに、海外で長期生活できる。

デメリット
 
  • 長い期間ポスドクを続けることはできる。しかし、その間に日本のアカデミアポストを得るのはそう容易ではない。
  • 助教以上のポストに就けなかった場合、非常勤講師などで生計を立てるか・協力研究員として研究を続けることになり、かなり薄給である。
  • 博士号取得後に民間就職した人と比べて、ほぼ間違いなく給与面や待遇面で下回る。ポスドクには賞与や退職金という概念はない。(最近の教員は賞与込みの年棒制や退職金を支給しないと書かれてたりする場合もあるので、ポスドクに限らないかもしれない。)
  • ポスドクから民間に転職する場合、中途採用になるので、新卒採用と比べると選択肢が大きく減る。年齢を重ねれば重ねるほど、選択肢が減っていく。
  • 任期付きなので、数年で異動、つまり引っ越しをすることになる。最短で助教になったとしても、数回はある。
  • 結婚している場合、配偶者と一緒に海外で暮らすつもりならば、その配偶者はほぼ無職となる。
    そうすると世帯年収400万円~500万円くらいとなるが、生活するのは大変だろう。特に子供もいる場合、さらに大変だと思う。
  • 海外生活は思ったより大変。海外でポスドクをしている場合、病気になった場合はとても大変。
 

最後に

以前書いた記事で満足してしまったため、どうでもいい記事になってしまった。しかしせっかく書いたので公開しておきます。あんまり参考にならんくてすまんな!
 
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